「治験の現場から001」では、新型コロナウイルス感染症ワクチンの治験に携わる医師に話を聞いた。今回は、同じ治験に取り組む看護師にインタビューを行う。昨今、日本では海外製ワクチンの接種が広がりつつあるが、安定供給が望める国産ワクチンを求める声はいまだ根強い。看護師の立場から見た国産ワクチン開発の最前線とは。

 

「被験者が集まるか」が唯一の懸念
多くの募集を受けて無事実施へ。


新型コロナウイルス感染症ワクチン治験の受託が決まったときの印象を教えてください。

受託が決まったときは、特に大きな驚きはありませんでした。国産ワクチンの開発が始まるというニュースを目にした時点で、「受託する可能性もあるのかな」と想像していました。だからすんなり受け入れられたのかもしれません。試験の内容を確認しても、特別な検査や処置があるわけではないようでしたから、業務面で不安を感じることもなかったです。あえて懸念を挙げるとすれば、被験者さんが集まるかどうか。当時は世界中でワクチン接種が広がる前の段階でしたし、日本はワクチン接種に消極的な方が少なくありません。協力してくださる方がいらっしゃるのか、そこだけが少し心配でした。蓋を開けてみると、たくさんの方からのご応募があったようで、ありがたいと思いました。

 

いつも通りの対応+αで
安心して参加できる試験に。


同ワクチン治験について、看護室の業務内容を教えてください。

看護師は、ワクチン投与前の各種検査を担当しました。たとえば、体温測定、血圧測定、呼吸回数測定、採血など。これらは、ほとんどの治験で実施されるもので、特殊な業務というわけではありません。この試験ならではの特徴を挙げるとしたら、唾液によるPCR検査を行う点や、ウイルス抗体価を検査する採血管を使う点でしょうか。ただ、いずれも珍しい処置というほどではなく、戸惑うことはありませんでした。ちなみに、ワクチンの温度管理は薬剤師が、ワクチンの投与は医師が担当しました。

試験前・試験中に配慮したことはありますか。

ひとつは感染対策です。大勢の被験者さんが集まって密になるようなことがないように、被験者さんをグループ分けして、処置の時間をずらして、効率的に人が流れるような仕組みをCRCと考えました。
また、私たちが感染対策を行っている事実を、被験者さんへ伝えるような配慮も行いました。たとえば、器具を消毒すること、こまめに手を洗うこと、唾液採取用の容器を使い回さないことなどは、どの試験でも徹底していることです。ただ、当時は、普段以上に誰もが感染症に不安を抱いている時期でした。そこで、私たちがさまざまな感染対策を行っていることをあえてお知らせして、安心してご参加いただけるよう努めました。

被験者の様子を教えてください。

OCROMクリニックは、普段は患者対象の試験を実施する機会が多く、被験者さんの年齢層は比較的高めです。ですから、幅広い年齢層の被験者さんとお会いできることは新鮮でした。OCROMクリニックはリピーターの被験者さんが多いのですが、今回は「リピーターの父に勧められて来ました」という若い方や、「娘も参加するのよ」と仰る顔馴染みの被験者さんもいらっしゃって、本当にありがたかったです。
参加資格が幅広いワクチン治験は、たくさんの方に治験を知っていただく良い機会になると思います。若い被験者さんが「初めての治験で緊張しましたが、全然怖くなかったです」と、笑顔で仰る姿を見て、とても嬉しかったです。このような印象をもっていただくためにも、「参加して良かったな」「次も参加してみようかな」と感じていただける環境づくりに、力を入れていきたいと思います。

 

医師やCRCと連携を取り
正確で迅速な試験を行う。


治験に携わる仕事のやりがいは何ですか。

新型コロナウイルス感染症ワクチンもそうですが、日本や世界で必要とされている医薬品の最前線を知ることができるのは、とても恵まれた環境だと思います。特に、OCROMクリニックは治験に特化した医療機関であり、多彩な試験を手がける機会があります。日々の業務に取り組むなかで、豊富な経験と幅広い知識を身につけることができるのは、大きなやりがいです。もちろん、医薬品を通して人や社会の役に立てる点も、この仕事の醍醐味だと思っています。

製薬会社に勤める方々に対して、メッセージはありますか。

OCROMクリニックには、長年治験に取り組んできた経験豊富な医師、CRC、看護師が在籍しています。その面々が職種の垣根を越えてしっかり連携し、誇りをもって仕事に従事しています。どんな試験も、正確かつ着実に行われるように全力で対応します。新しい医薬品を世に送り出すため、皆さまのお手伝いができれば幸いです。

(公開日:2021年 10月 5日)